インドに単なるカレーは存在しない。
インド各地の料理を20年にわたって食べ歩いているアジアハンター・小林氏がその経験のほんの一部を分け与えてくれる、インド現地料理店の徹底ガイド。インドに行くときは、本書を持って旅に出よう。
どんな本か
- インド食器や調理器具専門の販売業をカモフラージュとしてインド食文化のフィールドワークを続けている有限会社アジアハンター代表小林氏の、長年にわたるインド亜大陸現地での食べ歩き活動の一つの集大成とも言える書籍。
- 南・西編と北・東編の二部に別れており、それぞれインドの地域に対応している。
- 単なるお店の紹介に留まらず、インド料理が成立した歴史的背景を交えた考察や、緻密な現地取材の内容を記載。
いわゆるインド料理っぽいデリー・ムグライ料理からヒンドゥー化されていない北東部の少数民族ナガ族の料理、ハイデラバードのビリヤニからインドに移り住んだペルシア人であるパールシーの料理まで。全く聞いたことのない料理名ばかりが並ぶ。 カレーなんて、どこにもなかったのだ。
「インド料理って、インド料理店で食べられるあれでしょ?」と思っていると肩透かしを食らう。
「インド料理って、カレーでしょ?」と思っているとカレーはどこにも出てこない。
しかし、どれもこれも美味しそうだ。お店のガイドも用語の解説も詳細にされている。巻末には索引も充実しており、辞書的な使い方もできる本である。
この本が出版された当初はまだインドに行くことは難しい段階だったが、そろそろ海外へ行く道も開けてきた。次にインドに行く頃には皆が『地球の歩き方』ではなくこの本を持参していることだろう。
インド食器販売店をカモフラージュにしつつ熱心な活動を続けている小林氏。そもそも小林氏は、なぜそこまでしてインド亜大陸料理の追求を続けているのか。その考え方が最も表れていると思われる部分がこの部分。
誤解を恐れずに言えば、インド食べ歩きは美味しさの追求が最優先事項ではありません。美食を求めるのは重要ですが、旅の食で得られる味わいの魅力は、単に舌先で感じとれる美味を超越したところにあり、さらにその味わいはその土地を知るにつれてさらに深まっていくことに気づかされます。
あとがきより
美味しいことはたしかに大切だけどそれだけじゃない。インド料理やインドを知れば知るほど、食べれば食べるほどわからないことが増えていき、探求は終わらない。それは孤独な道なのかもしれないが、
人生を賭すに値するだけの抗えない魅力があるのだ。
2019年にはこれら二部作に先立つ形で『日本の中のインド亜大陸食紀行』を上梓されており、そちらも素晴らしいのでぜひ。
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