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カレー本書評

【書籍紹介】ナガランドを探しに

インド北東部に位置するナガランド州。

ごく最近まで紛争地域であり、外国人が自由に出入りできないエリアとされていた。しかし、実はそのような鎖国状態だった1989年のナガランドに若い日本人女性が渡航していた。

旅先で偶然ナガランドの「アンクル」と知り合ったことをきっかけに、導かれるままに現地を訪れた。柔らかい文体で当時のナガの人々の暮らしぶりや旅の様子を伝える旅行記。


日本人が捨て去った理想郷のかけら

紀行文形式だが、ナガの人々の当時の暮らしがどんなふうだったのかイラスト入りでとても細かく描写されており、数少ない、日本語で書かれた大変貴重な資料といえる。

インド亜大陸の料理というくくりで軽い気持ちでナガランドの料理を調べ始めたのだが、従来のインド料理とは全く違う料理ばかりで、どちらかといえば東南アジアの少数民族の料理に近い。ナガ料理では発酵したたけのこを使い、納豆を調味料として使い、豚肉の燻製を食べる。

ナガランドの人々は日本人にそっくりで、映像や写真を見ると心の原風景というか食に限らずどこかに共通の文化的ルーツを持つのではないかと思う。

地元で取れた食材を使い、民族の伝統を守りながら暮らし、家族を大事にしながらゆったりと笑い暮らす。風呂もトイレも苦労するような不便な毎日ではあるが不思議とストレスは溜まらない。そのことを作者は「日本人が捨て去った理想郷のかけら」と表現している。

いったい、我々日本人にとっての豊かさや幸せとはなんだろうか。本の中で一度、対比的に登場する「ナガのビジネスマン」が象徴的だ。

彼らは立派な工場を経営していて、他のナガ人とは違って民族の誇りや伝統よりも自分のビジネスを拡大することを優先している。反政府主義者ではパスポートもとれず外国にもいけないが、彼は自分をインド人と認め、パスポートも取得し日本で勉強もしてきた。民族の独立や権利回復を謳って伝統的な暮らしを守っている多くの人々とは違っていて、彼らはいまの日本人の感覚に近い。

これは30年も前の話だ。いまのナガランドは観光もできるようになっているしもっと資本主義化が進んでいるはずだ。

日本人が忘れた風景がナガにあるのだ、とかそういう話がしたいわけではない。この本に記されているのはもうすでに失われた風景の記憶だ。時間的にも空間的にも遠く離れたところでの出来事を、宝物のように大切にしまってあるような本だと思った。

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終わりに

恥ずかしながらナガランドの独立運動の歴史に関していままでほとんど知識がなく、無邪気に「インド亜大陸料理」のカテゴリに入れてしまい、虐殺や紛争の悲しい歴史を知るに連れそれでよかったのだろうかとも逡巡した。

だが結果的に、微力ではあるが日本でもまだあまり知られていないナガランドという土地のことを多くの人に知ってもらう手助けをすることはできたのかもしれないと思う。いつか遊びに行きたい場所である。

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