スパイスのブレンドや新しい組み合わせを探すのに、経験や直感ではなく科学的な根拠を持ちたいという思いはないだろうか。そんな方におすすめなのが本書だ。
巻頭にはスパイスの周期表が大きく掲げられ、前半は世界の伝統的なスパイス使い、後半はひとつひとつのスパイスのプロフィールについて詳細に触れられている。
科学的にスパイスを理解し、クリエイティブな料理に活かす!
本書では風味化合物に共通する特徴に応じて、スパイスを12種類の風味グループに分類している。そのグループ分けに応じて「異なるグループに属する同じ化合物を持つスパイス」をそれぞれ結びつけることで、調和する独自の新たなスパイスミックスを作り出すことができる。
ちなみに本書で挙げられている12種類の風味グループとは、以下のような分類だ。一部は嗅覚で認識するわけではない風味化合物もある。
1.甘さと温かさをもたらすフェノール類
ex.)クローブのオイゲノール、フェンネルのアネトール
2.土の香りをもたらすテルペン類
ex.)クミンのクミンアルデヒド、ニゲラのシメン
3.温かさをもたらすテルペン類
ex.)ナツメグとメースのサビネン、アナトーのゲルマクレン
4.刺激感をもたらすテルペン類
ex.)セリムグレインのフェンコン、カルダモンのシネオール
5.心地よい香りをもたらすテルペン類
ex.)ジュニパーのピネン、コリアンダーのリナロール
6.柑橘系のテルペン類
ex.)レモンマートルのシトロネラル、レモングラスのシトラール
7.甘酸っぱさもたらす酸類
ex.)キャロブのヘキサン酸、ペンタン酸、アムチュールのクエン酸
8.硫黄風味をもたらす化合物
ex.)マスタードのイソチオシアネート、ニンニクの二硫化ジアリル
9.フルーティさをもたらすアルデヒド類
ex.)スマックのノナナール、バーベリーのヘキサナール
10.辛さをもたらす化合物
ex.)唐辛子のカプサイシン、黒胡椒のピペリン
11.香ばしさをもたらすピラジン類
ex.)130度以上の熱でスパイスを乾煎りするとピラジンが生じる。炒って加工したものや炒めたり乾煎りしたりすると風味を増すもの。
12.ユニークな化合物
ex.)サフランのピクロクロシン、サフラナール、ターメリックのターメロン
フェノール、テルペン、アルデヒド、ピラジンについては有機化学を勉強し直そう。
伝統的なスパイスの使い方
もちろん世界各国に伝わる伝統的なスパイスの使い方も大事だ。すでに何世紀にもわたって培われてきたスパイスの使い方を土台にすれば、新しいクリエイティブな組み合わせを考えるヒントを得ることも難しくないだろう。
日本も含めて、全世界の代表的なミックススパイスやスパイスの使い方を網羅しているのだが、特にインド周辺は北インド、ヒマラヤ山脈地域、中央インド、東インド・バングラデシュ、西インド、南インド・スリランカと6つのエリアに細かく分けて解説されている。
例えば北インドはクミン、ターメリック、唐辛子、生姜、ニンニクが特徴的。一般的な「スパイスカレー」のレシピでよく登場するのがこのあたりで、よくある北インド家庭料理っぽい香りを構成している。
「ヒマラヤ山脈地域」の特徴的なスパイスはフェヌグリーク、唐辛子、ティムル、生姜、ニンニクとあり、ああネパールっぽいなと分かる。
こんな風に眺めているだけでも楽しいし、それぞれの特徴的なスパイス、現地のミックススパイスなどをざっくりと概観を掴むことに役立つでしょう。
クリエイティブなスパイスミックスの組み合わせを考えるために
当たり前なのだけれど、本書を見ると一つのスパイスに含まれている香気成分というのは多岐に渡ることがわかる。
例えば肉系のカレーによく使われ、相性がよいとされてセットで使われることが多いシナモン、クローブ、カルダモン。
シナモンの主要な成分としてカリオフィレン、シンナムアルデヒド、リナロール、オイゲノールが挙げらているが、【ウッディ・スパイシー・ドライ】に分類されるオイゲノールと【薬っぽい・ウッディ・温かい】に分類されるカリオフィレンはクローブにも共通して含まれる成分。また、フローラルなリナロールはカルダモンとも成分を共有する。
シナモンとクローブは1.甘さと温かさをもたらすフェノール類のグループに属し、カルダモンは4.刺激感をもたらすテルペン類に属する。
つまり、同じ風味グループから2つの風味化合物を選ぶことで複雑さを増し、共通する成分を持つ他の風味グループから一種類を選ぶことで立体感を出している。
本書を参照するとこれは王道の組み合わせであることがわかる。さらにこれを応用して、いくらでも新しいミックススパイスを考えることができる。
パズルみたいで楽しいし、直感に理屈が与えられることで、説得力が増す。
スパイスの勉強をする上で、とりあえず図鑑として置いておくだけでもおすすめです。
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