始まりは、とあるカレー仲間からのタレコミだった。
「これ、行ったことあります…?」と送られてきた写真の世界観に目が釘付けになった。
聞けば、謎の料理人が都内の某所で間借りをし魅惑のスパイスを使ったコース料理を提供しているらしい。価格は1万円。
もともとのバックグラウンドはフレンチだがネパール料理にハマり、あらゆるスパイスの可能性を追求して料理に取り入れているらしい。
料理は和洋中を自由自在に横断し、ノンアルのドリンクが頭をバグらせてくる。
味覚だけでなく視覚や聴覚にも訴えかけてくる作品群で、何かとんでもない世界に足を踏み入れた気がした。
これは行くしかない…。と思ったのだが緊急事態宣言発令の期間中は活動を休止しており、先日ようやくその想いが叶ったのだった。お店にはBGMもなく、2時間あまり食だけに集中して過ごすことができた。その食体験を反芻して記録に残しておきたい。
メニューを見ると料理は5つあり、食前酒含めてノンアルドリンクが6つつく。
食前酒:赤紫蘇/ポールジロー
究極のおジュースポールジローに赤紫蘇が合わさった紅いろのドリンク。
この日は雨が続く毎日の中で少しだけ日が差し込む日だったのだが、爽やかな紫蘇の香りが夏の訪れを実感させた。
飲みきってしまうとあとは空白の時間である。食事の時にBGMはいらない。余計な情報をシャットアウトして感覚に集中したい。
食前酒は自らが空っぽであることと、胃袋の中が空っぽであることを気づかせてくれる。
前菜
ポテトタルトに枇杷、タマリンド、ラルドという豚の脂が乗っかっており、塩味・香り・辛味とそれぞれ仕立ての違うものが3つ乗っている。サクサクとしたあと肉のような食感のビワが応え、ラルドが後から旨味を醸し出す。
浅煎りのコーヒーが上に降り掛かっており、フルーティさがある。
ペアのドリンクがまた面白い。トマトウォーター、利尻昆布、カモミール、コリアンダー、オレンジ、マルドン。マルドンはイギリスの塩ですね。
昆布はわかる、オレンジの香りがする、トマトは旨味を微かに感じる程度で出汁感が昆布に多分似ている。全体的にぼんやりとしているのだが適度に塩をなめると輪郭がはっきりしてくる。
塩のあるなしでも香りの感じ方が変わる気がする。
スープ
山の息吹という新茶を使った、昆布だしのような旨味のあるお茶にかつおぶしを合わせて一番だしのようにしている。そこに生ローリエを足して清涼感のある香りをつけ、スープの付け合せは鮎のつみれ。
内臓と実を叩いていてほろ苦い。ピーマンとパセリのオイルが青々と浮かんでおり、青臭さと適度な苦味を加えている。
ペアとなる飲み物はグラニテ(シャーベット)。きゅうりとすだち、青唐辛子で構成される。スープを飲みながら口内をグラニテでリセットしながら食べていく。
魚料理
終わりかけのヤングコーンに鯒(こち)を合わせた春巻き。ムース、ぎばさ、実山椒、ケール、ひげがたっぷり入っている。 黄身を湯煎して作るオランデーズソースにナツメグが大量に降り掛かっている。
ざっくりとねっとりとしっとりがかけ合わせになっていて、香りが途中で二段階くらい変わる。ナツメグの爽やかさが後からやってくる。
スギの香りがするドリンクに感動した。ドリンクは杉の木を粉末にしてコーヒーのようにドリップした液体。 ジュニパーベリー、メースなどを漬け込みシロップにした森を飲むようなドリンクだった。いうなればノンアルのジン。
炙った木の皮が入っていて、使えるものはなんでもスパイスとして使ってやるという意気込みが体現されたようなドリンクだった。
、
肉料理
草の香りを久しぶりに嗅いだ。シャラン鴨をローストして牧草でいぶしてある。これは帯広に行ったときに嗅いだことのあるニオイのような気がする。OLD NEPALの鴨のチョエラをちょっと思い出した。
器にのっているほうは付け合せとソースで、じゃがいもとタスマニアマスタードに桃が入り、馬告が散らされている。上にはクレソンとセルフィーユのサラダ。あさりと鶏の出しのソース。クコの実とクチナシのオイル、 クコの実の薬味。
この付け合せが大変おいしいのだが、そういえばじゃがいもも桃もヒンディーでは「アールー」で、そのへんも掛け合わせてあるのだろうか。(आलूとआडूなど表記や発音は違ったりするみたいだけど)
ペアのドリンクは中国の紅茶で、少し正露丸のような焦げた香りがある。
デザート
ラストはメティ、ティムール、黒ビール、緑豆のクレープ。上にパッションフルーツが鎮座ましまして重層的に仕上がっている。
コーヒーミントトニックはライム感もあり爽やかで新しい。
ティムールがバキバキに効いていて、追いかけてくる。
後日このシェフと新大久保で偶然遭遇したのだが、それはまた別の話だ。
お店の情報
予約は上記Twitterアカウントより、告知されたタイミングでDMを送るしかない。
会場は都内某所。
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