カレーを考える

ANTCICADAで虫になった夜(馬喰町)

長野のど田舎で生まれ育った自分は昆虫食にまるで抵抗がない。稲刈りが終わったあとの田んぼにばあちゃんが布袋を手にずかずか入っていき、手づかみで捕らえたイナゴを片っ端から佃煮にしていた光景は今も脳裏に焼き付いている。

ふるさとではイナゴ以外にも蜂の子、ザザムシ、特産品のカイコなどをいまでもたまに食べている。昔でこそそれらは貴重なタンパク源であったのかもしれないが、飽食の現代においては珍味の粋を出ない。なぜか。一番の理由は「そんなに美味しくないから」だし、「他に食べるものがあるから」ではないだろうか。単純に、美味しかったらもっと流行っているはずなのだ。

ずっと、そう思っていた。ANTCICADAに行くまでは。

ANTCICADA
ANTCICADAは、地球を愛し、地球を探究し続けるレストラン。昼にコオロギラーメン、夜に旬の虫を使ったコース料理を提供します。ANTCICADA is a restaurant that loves and explores the Earth we live in.

旬の昆虫を味わえる季節のコース料理 

ある金曜に訪れた昆虫食レストランANTCICADA。現在は金土に完全予約制のコース料理と日曜に通し営業でコオロギラーメンを提供している。

季節の旬の虫を活かしたお料理とお酒のペアリングが楽しめ、コースの内容はほぼ毎回変わるという。ドリンクも国内の珍しい酒蔵のものや自家醸造のものなどかなりこだわっている。
自分が体験したコースはこのような感じだった。

お通しにコオロギスナック。ときおり頭らしきものが混じっているが、香ばしくコオロギビールによく合う。

コオロギビールは麦と一緒にコオロギを焙煎しているという。普通のビールよりもっちりとした泡があり、コクが有る。めずらしいドイツの黒ビールと言われても違和感はない。


穴子のソテーにザザムシのバターソースがけ。
“地球少年”篠原さんによると、ザザムシは味が最もうまいらしい。昔はよく川に入ってなにかの幼虫を採ったりしていたが、ザザムシはそういったカワゲラやヘビトンボなど川で幼年期を過ごす昆虫をいくつかまとめた呼び名である。


ツルレイシ(ゴーヤ)と鮎。表面のつぶつぶはなんだっけ。。。

タガメの内蔵は、脳がバグる感覚に陥るほど不思議な甘い、やけに人工的な香りがする。洋梨のような、人工香料のような。


新鮮なカイコとハーブのサラダに、蚕醤油のドレッシングをかけたもの。

普段食べられるカイコは繭ごと茹でて糸をとるため、茹でられてから時間が経っていることが多く皮が硬かったり独特の匂いがあったりする。このとき食べたものは繭を切って取り出し生きた状態のまま送られてきた新鮮なものを使っているという。そういう食べにくさはなく、美味しくいただくことができた。

こちらは蚕の糞。インドの細かいダストティー、CTC茶葉を彷彿とさせるが、これも立派な食材となるという。食べてみるとたしかに緑の香りがする。

昆虫を食べるだけではなく、昆虫になりきることもできる。

木に空いた穴からストローでジュースを飲む。セミになりきれる料理、「セミの気持ち」
穴がたくさん空いていて、中には外れもある。食材を食べるだけではなく、食材の気持ちになれるというのは体験として面白いと思った。
このときはセロリとりんごを混ぜたジュースと、発酵させた麦茶。爽やかな酸味があった。


朝採れのセミの幼虫を揚げてカラメルで閉じ込めたもの。
セミの成虫はエビの殻のような風味だが、羽が固くなる前の幼虫はナッツのような味がする。ずっと樹液を吸って生きていた幼虫は、動物と植物の間の存在だと言えるのかもしれない。


コオロギを練り込んだ麺生地をタコスにしたもの。そこにキュウリとカツオが乗っており、調味料としてコオロギを発酵させた甜麺醤を使っている。

この醤が力強い旨味をもたらす。


10日熟成させた鹿肉とイナゴトマトソースとたんぽぽのピクルス。コオロギと同様、8ヶ月発酵したイナゴ醤もうまい。モミの木が刺さった肉の塊を持ち上げ、豪快にかぶりつく。肉は甘いのか。モミの新芽は食べられなかった。

そしてシメには名物のコオロギラーメンが登場。コオロギは雑食性であり、食べ物によって味が変わるという面白い性質を持つ。その特性を利用して特別にファームで育てたコオロギを、一杯につき70匹ほど使用しているという。

淡色であっさりとした味のヨーロッパイエコオロギと、黒くて癖が強めなフタホシコオロギの2種類があり、それをうまくブレンドして使っているという。
コオロギを麺に練り込み、出汁をとり、醤を足し、コオロギ油を仕上げにかける。その幾層にもなったコオロギの旨味が波状攻撃となり、汁まで飲み干してしまった。

コオロギがこんなに美味いとは全く知らなかった。何に似ているかと問われれば、エビだろうか。しかしエビともちょっと違った、独特なパンチのある油臭い香りが特徴的だ。

このラーメンは食材としてのコオロギのポテンシャルをちゃんと引き出している。

デザルトはタガメと枝豆とミントのシャーベット。これにおいてもあのなんともいえないクッソ爽やかな香りが吹き抜けており、枝豆の異質な食感と合わせて清々しいものであった。

最後に温かいお茶を飲んでおしまい。情報量が多すぎて追いつけないような、物語性のある一連のコースだった。

渡されたコオロギのバトン

ANTCICADAの店名の由来は、そのまま「アリとセミ」。有名なイソップ寓話の「アリとキリギリス」のキリギリスはもともとはセミだったという。寓話だとキリギリス的な生き方は良くない、とされているがそんなのは誰が決めたんや!?それぞれの質の高い生き方があるじゃねえか!という想いを込めてこの店名にされたという。

これから間違いなく訪れると言われている食糧危機だが、人類を救う鍵の一つとなるのが昆虫食だと言われている。

昆虫を出すお店にはいくつか行ったことがあるものの、まだ「ゲテモノ」や「珍味」の粋を出ていない扱いを受けている。昆虫を愛し正しく理解し、ポテンシャルを引き出すと正統的にこんなに美味しくなるのだと示してくれたこのお店は、これからおおきなうねりとなり時代を作っていくのだろう。何よりメンバーが非常に若く、まだ20代前半の人たちで固められている。正直言って、イカれていると思った。

 

コースの最後に出てきたコオロギラーメンに非常に感動し、ぜひコオロギカレー作りにトライしてみたいと久しぶりに心が震わせられた。100g単位で売ってくれないかと申し出たのだが、帰り際お土産としてジップロックに入った大量のコオロギをギフトとして頂いてしまった。これはコオロギのバトンということだと解釈し、最近は人類を救うコオロギカレーの開発にトライしている。


お店の情報

アントシカダ (馬喰町/創作料理)
■予算(夜):¥8,000~¥9,999

営業時間

コース料理
[金]
19:00~(完全予約制)
[土]
12:00〜(完全予約制)19:00〜(完全予約制)

コオロギラーメン
[日]
11:00〜21:00(予約不要)

営業時間などに関しては直接お店にご確認ください。

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