※西荻窪へ移転済み
旅先に行くとついつい玉ねぎを炒めるための木べらを探してしまう。
それは修学旅行先で学生がはしゃいで木刀を買うのとはまた違った話だ。木べらは実用的だし、何本あっても困らない。
長さや素材、形状など一律なようでいて、。木べらには意外なほどバラエティがある。木材の種類によって個体のばらつきがあるし、木目もひとつひとつ違う。同じ商品として売られていても手に馴染むものと馴染まないものがあったりする。
手の延長のように、道具であることを意識させないほど手に馴染む木べらがあったら、それが一番いい木べらであると思う。
奈良には栗の木を使った木べらがあると聞き民芸店をいくつか回ってみるも、木べらの木の字も見当たらなかった。
木べらは見つからなかったが、奈良では美味しい南インド料理にありつくことができた。
以前、渋谷CURRY TUNEのイベントで食べてから気になっていたタリカロの本店にようやく行くことができた。
オープンの少し前にお店に到着すると既に小さな行列が。
大仏の中に入るように、少し低くなっている扉を頭を下げてくぐり抜ける。お店は古い町家を改造したもので、中庭もあり広々としているのだが、アニメフィギュアがたくさん飾っておりそのギャップにトリップ感がある。
メニューのラインナップは南インドアーンドラ地方の料理が中心となっている。手挽きのマトンキーマがあると聞き気になっていたのだがこの日は食べられず。結局スペシャルカレープレートとアーンドラの羊のスープ、マラックをお願いした。
Maragというのはハイデラバードなどで食べられる羊を骨ごと煮込んだマトン骨スープで、寒くなってから食べるものだという。
スープは透き通った仕上がりで、立ち上る香りの中には羊と香菜の輪郭がぼんやりと認識できる。スプーンでひとすくいを口に含む。脂に包まれた甘みがあり、舌で転がすとワンテンポ遅れて羊の旨みが広がる。
飲み込む時には唐辛子の細やかな刺激が喉をひっかき、咽せそうになる。
3口ほど食べ進めるとスペシャルカリーのプレートがやってきた。
内容はダル、アーンドラ・マトンカリー、パパド、ターメリックライス、ポリヤル、アチャール、ヨーグルト。
マラックとマトンカレーの羊成分が被ってしまった。しまった、と心中で独り言ちたが、マトンカレーに手を伸ばして一口いただくと、むしろその判断は正解だったことにきづく。
やはりこの店の真骨頂は羊だ。結果として、その羊を違った角度から同時に楽しむことができた。
アーンドラテイストのマトンカレーということで辛さはなかなかのもの。汗を噴き出しながら食べた。なぜかダールも辛い。ポリヤルはかなり細切りで、アチャールやダールと混ぜつつ、割合を探っていく。適度な辛さがあると血行が増すからなのか、集中力が上がって料理にフォーカスがあたりすぎる感覚に陥ることがある。
人間は空間と時間のものさしをもって世界を認識しているが、こうして品数も多く、混ぜることで時間の中で変化していく食べ物というのは広がりという意味で豊かな体験だとつくづく思う。
そういえば来年、お店は東京の西荻窪に移転するようです。食べられなかったマトンキーマとチキンカレーを食べてやるのだと今から思っている。
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