お米について考えるにあたって、どうしても行っておきたいお店があった。
代々木上原の「おこん」である。カレー屋さんではないのだが、お米に関して異常と言ってもいいほどのこだわりのあるお店だ。
日本米について考える上でなんらかのヒントになるかもしれないと思い、訪問した。
初めて存在を知ったのはこちらの記事だっただろうか。
「いま一番炊かれたい男」がいるお店。つまり米の変態である。米というのはシンプルが故に変態になりにくい。そのお米で変態を突き詰めているというので気になっていた。
”ウェルカムライス”から始まるライスコース
コースを予約し、少し駅から離れた高級住宅街にそのお店はある。
店内は比較的若年のお客様で賑わっている。
席に通され、一番初めに口に入れたのは米だった。
そう、代々木上原では一般的な文化(ではない)、ウェルカムライスである。お通しが米なのだ。
この日のお米は新潟県船越産コシヒカリ。それを一粒ずつ手作業で選米し、土鍋で炊き上げたものをあえて冷ましたという。
口に含むと米の甘さが広がる。もちもちしながらもシャッキリ、それでいながら粒の大きさが揃っているのか、米の輪郭がはっきりしている。なるほど・・・。
そのあとはポテトサラダとなます、ナスやししとうの炊き合わせなどご飯と相性のいいおかずが出てきて、それでお酒を飲ませるという趣旨だ。
焼き鮭や刺身なども大変上等なものでお米が欲しくなってしまったが、最後の炊き込みご飯はとても量が多いので余裕を残しておいた方が良いですよ、ということでやめた。
本当はお米を肴に燗酒を飲んだりしたかった・・・。
コースの最後に現れたのが、名物の混ぜご飯。
選米された土鍋だきコシヒカリにローストビーフ、うに、アボカド、いくら、キャビアを乗せた、ご馳走にご馳走を塗り重ねたようなものが出てきた。
これをよく混ぜてから取り分けていただく。
うん、まあうまいよね。当たり前にうまい。うまいんだけど、うまいのがわかっているものを重ねたらうまいに決まっているし、ここには何も変態性がないと思ってしまった。
てか別々で食べさせてくれ!!!!
しかしこれも、選んだ上で特別な炊き方がされた米だからこそ具材に負けず支えられているわけで、実は普通の米ではできないものすごい料理なのかもしれない。
湯漬けの中にカレーを見出す
混ぜご飯でコースは終わりなのだが、ゴテゴテの足し算の料理を食べた後には引き算の料理に走りたくなるもの。
マッキー牧本さんの記事で見かけた米の湯漬けを最後にお願いしてみた。
本当に米にお湯をぶっかけただけである。
米のポテンシャルもさることながらお湯がうまい。きっと水にもこだわっているのだろう。鉄瓶か何かで沸かしていて、電気ポットで沸かしたお湯とは違う味がするのかもしれない。
塩昆布が付属でついてきたものの、そんなのはいらなかった。米の甘味だけでイケる。正直、さっき出てきた豪華な混ぜご飯より美味しかった。
米を選ぶことによって粒が際立っているんだろうな。
お湯に米の甘味が溶け出して、渾然一体となっている。なんだこれは。カレーだ。
カレーとは、異質なものが出会い、交わり、歩き出すものだ。
そう考えれば見事に融合して新たな味わいを作り出しているこの湯漬けもカレーかもしれない。
これはカレーだ、という気持ちが昂りすぎて、自分は短歌を一句詠んでしまった。(タゴール・ソングス応援短歌企画に寄稿しました)
白米が白湯にとけこんで カレーとしてカレーとしてたちむかってくる
インド亜大陸の水かけご飯
余談になるが、この湯漬けで、バングラデシュやベンガル文化圏にあるという水かけ発酵ご飯を思い出した。Panta bhat(パンタ・バート)とかPoitabhatとかポカラとか呼ばれるもので、自分は新井薬師前のシック・ダールでしか食べたことがない。
今でもインドの田舎の方に行くと食べられるらしいけど、コルカタやダッカでは見かけなかった。というか、あまりレストランとかでは出さない料理なのだろうか。
お米を水に漬けるのは東インドらへんに昔からある炊いたお米の保存方法で、素焼きの容器に水と共に入れて、一晩寝かせておくと自然に乳酸発酵する。大体次の日の朝に水を切って、ジョルやボルタ、チリやライムと一緒に食べる。
日本の気候ではうまく発酵させるのは難しいかもしれないが、一度作ってみても面白いかも。
終わりに
日本米にフォーカスしたお店ということで訪れたおこんだったが、お米の実力は想像以上だった。お米自体が大切に作られたものであり、それを丁寧に選び、土鍋を使っていい水で炊き上げているから粒が際立っているのだろうな。
最近日本ではミルキークイーンのような、いわゆる低アミロース米が人気らしい。おこんで食べたコシヒカリも典型的な低アミロース米。
ご飯に含まれるデンプンには2種類ある。アミロースとアミロペクチンである。アミロペクチンもアミロースもぶどう糖が連なって分子を形成しているものだが、アミロペクチンの方が巨大で枝分かれしているので、絡まってもちもち感が生まれる。低アミロース米(=高アミロペクチン米)は簡単にいえばもち米とうるち米の間で、冷めても硬くならずにおいしいということで人気が出ている。
ただ、カレーに合わせるお米という意味では日本米でもササニシキなどの高アミロース米、もしくはバスマティライスやタイ米などのインディカ米がやはりおいしいと思う。粘り気が少なくパサパサしているが、汁気の多いカレーを吸ってちょうどよくなると思うのだ。
ということで、インディカ米の食べ比べをしている今日この頃である。
コメント