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カレーについて考えるコラム

西ベンガルと東ベンガルの違い。ゴティ(Ghoti)とバンガル(Bangal)の概念

『ベンガル料理はおいしい』『バングラデシュの家庭料理レシピ』に載っている料理を両方とも一通り作ってみた。それにしても「ベンガル料理」と一言に言っても東と西で、どうしてこうも違うのだろう。


最近知ったのだが、西ベンガルと東ベンガルを対比する際に西ベンガルの人を「Ghoti(ゴティ)」、東ベンガルの人を「Bangal(バンガル)」として大別する概念がある。これは宗教によって分けられるのではなく出身地域によって分かれるもので食材や食嗜好も異なってくる。


この概念を理解することはそのまま東西ベンガルの文化の違いを理解するのにも役立つと思われる。その成り立ちと食文化について理解したいと思い、いろいろ調べている。

追記:

最近、この概念の分け方について考え直してちょっともやっとしている。「ゴティとバンガル」というのは差別的な意味を含む用語であったり、西ベンガル側でしか使われていないものだったりしてあまり適切な分け方ではないかもしれない。

「ベンガル料理」と一言でまとめているわりにどうしてこんなに違うのか、という疑問を解消するための用語として一刀両断するには便利だったので飛びついてしまったのだが、言い切れば言い切るほど現実から離れている気もしてくる。

本記事の内容に関しては参考程度に留めておいてください。もう少し根拠のある情報が入手できたらちゃんと書きます。




今回は小林真樹 著『日本の中のインド亜大陸食紀行』を一部参考にさせていただきながら、英語版Wikipediaを翻訳して要約してみた自分用メモ。


「ゴティ」と「バンガル」

“Ghoti “と “Bangal “はハイカーストのベンガル・ヒンドゥー教徒の間で主に使われている言葉で、一族の祖先のルーツが西か東か?を表す用語。

バングラデシュでは西ベンガルからの移民が比較的集中している地域を除き、これらの言葉が使われることはほとんどないらしい。ゴティもバンガルも単一なコミュニティではなく、実は宗教とも関係がない。単純にヒンドゥー教徒とイスラム教徒を分けているのかと思ったけどそういうことでもないらしい。

地理的な分け方では、ブラマプトラ川とパドマ川が東西の境界線だが、「シレットとチッタゴンは別で考えるべき」や、より経済的に豊かなグループに属する人々だけをバンガルとする、などいくつかの分け方がある。


ざっくり分けてしまえば、

・西ベンガルのコルカタなどに伝統的に住む人→ゴティ(Ghoti)
・現在のバングラデシュである東ベンガル出身の人々→バンガル(Bangal)

のようになるのだが、成立の歴史を次の章にまとめてみた。



成立の歴史

「ゴティ」という用語自体は少なくとも18世紀初頭から使用されているが、第二次世界大戦後のインドが独立しベンガル州が二分された1947年以降、この言葉の使用が急増した。

歴史的にゴティの故郷であったベンガルの西半分は西ベンガル州となり、東半分(プルボ・バンガ)は東パキスタンとなった。1971年、東パキスタンはバングラデシュ解放後、バングラデシュとなった。

この独立関連のタイミングで何百万人ものヒンドゥー教徒のバンガル人が、宗教的迫害と大多数のイスラム教徒による政治的弾圧のために、東パキスタンとバングラデシュからインドに逃れてきた。これらのバンガル難民は、西ベンガルの人口密度が急上昇する中で、住居、食料、雇用を求めて競い合っていた。

これらの難民によって「ゴティ」という言葉が広まり、ベンガル東部とは大きく異なる先住民族とそれに関連する先住民文化を識別するために使われるようになった。

その後、経済的に有利な立場にあり、土地や仕事の資源の大部分を支配していた先住民(ゴティ)は、この言葉を自分たちでも使うようになった。これは、新参者(バンガル)から社会的に自分たちを区別したいという欲求と必要性から生じたものである。

結局、ベンガル分割時に東ベンガルから西ベンガルに移ってきたバンガル人でありその時点で西ベンガルに滞在していた人をゴティ人と呼んでいるようだ。

1947年のインド独立前に東ベンガルから西ベンガルに来た人々は、独立時にインドの西ベンガルに滞在していたため、ゴティとなる。ここで使用される用語は、これらのグループのほとんどのメンバーが現在インドに住んでいるので、実際の地理とはほとんど関係がない。


ゴティとバンガルの食文化の違い

ゴティ料理とバンガル料理は使用する食材や料理が異なる。「バンガル」という言葉自体はバングラデシュでは使われていないようだが、ベンガル料理は「西ベンガルの料理=ゴティ料理」、「バングラデシュの料理=バンガル料理」としてざっくり分類するとわかりやすい。


多少重なる部分はあると思うが、『ベンガル料理はおいしい』『バングラデシュの家庭料理レシピ』に載っている料理の違いがそのままゴティ料理とバンガル料理の差に当てはまってくると思う。



ゴティ料理は砂糖を多用し、魚をバナナの皮で蒸し焼きにしたり、肉をマリネして段階的にグレービーを作るなどより複雑な工程を経る。また、伝統的なものなのか、マスタードオイルを多用する。それに対しバンガル料理はほとんど砂糖は使わず、シンプルでストレートな味わい。料理自体も混ぜ合わせて煮込むだけというシンプルな作り方が多い。また、ほとんどマスタードオイルは使わない。




ゴティ料理は砂糖を多用する。レシピを見ると、基本的にどんな料理にも砂糖が入る。また、スイーツの種類がかなりあり、Sponge Rosogolla (Rasgulla), Misti doi, Ledikeni, Langcha, Jaynagarer Moa, Roshomalai, Pantua, JolBhora Talsash, Mihidana, Roshokadamba, Rajbhog 、Gopalbhogなどは西ベンガル原産。

シーフードはベンガル料理に共通した特徴だが、ゴティはChingri(海老)が大好きで大小様々なエビを食べる。『日本の中のインド亜大陸食紀行』に記述があった、Daab Chingriという”ココナッツに頭からエビをぶっ刺した外食料理”に近いものを以前コルカタで食べたことがあった。


対してバンガルの人々は川魚を毎日のように食べる。国民的な魚としてヒルサ(ilish)があるが、それ以外にも鯉の仲間や鯰の仲間など多種多様な魚を食べる。ゴティもヒルサを食べないわけではないらしいのだが、どうやらバングラデシュ側の河の方が水深が深いためヒルサの味が良いという。ほんとかな。

ケシの実のペーストでじゃがいもを煮た料理アル・ポシュトのようにゴティでは様々な料理にケシの実(ポシュト)が登場するが、バンガル料理ではほぼ使われない。


逆に素材を調理してマッシュした料理、ボッタはゴティではあまり食べられていない様子。チッタゴンなどで多く作られている乾燥魚シュトゥキのボッタなどは独特の発酵臭があるが米が進む味わいで日本人の私は抵抗なく受け入れられたし、好き。バングラデシュ・ダッカでお邪魔した家庭やボッタ専門店でも定番だったが、その臭いからゴティではあまり好まれないようだ。


まとめ

以上のように、ゴティ料理とバンガル料理はどちらもイリッシュを食べること、米をたくさん食べることなどの共通点もあるが、異なる点も結構多い。

「ベンガル料理」と一言で言ったときに今まで両者を区別していなかったが、この概念を獲得した今、見分けることができる。最近都内に増えてきているベンガル料理店は主に「バンガル料理」であり、「ゴティ料理」を出しているのは町屋Pujaくらいだろうか。

バンガルという概念は宗教とは関係ないにしても、バンガル料理自体はムガルのイスラム料理の影響を色濃く反映しているように思われる。その辺の歴史的経緯は詳しくはまだわかっていないので今後の課題としたい。

今回の記事は机上リサーチの情報と自身の経験を混ぜて考えてみたものなので、もっと正確な事情をご存知の方や、ここ間違ってるよ〜というところがあればご指摘ください。



参考URL:
Bangal - Wikipedia
Ghotis - Wikipedia
参考文献: 『日本の中のインド亜大陸食紀行』(阿佐谷書院, 小林真樹 著) 『ベンガル料理はおいしい』(NUMA BOOKS, 石濱匡雄 著 ユザーン監修) 『バングラデシュの家庭料理レシピ』(バングラデシュの家庭料理を食べる会)

 

コメント

  1. ナガガタヒロアキ より:

    自分が調べた範囲では、ghotiとbangalは、ヒンドゥー同士でお互いを蔑んで呼んだ言い方。ムスリムは含まれない。
    ghotiも魚は毎日のように食べます。イリシュは確かに東ベンガルのが美味で有名。
    海老とイリシュの話は、サッカーのMahan BaganとEast Bengalが戦って、前者が勝てば海老を、後者が勝てばイリシュをプレゼントしたのが始まりのようです。前者がGhoti,後者がBangal代表みたいな感じ。

    • カレー哲学 より:

      ナガガタヒロアキさん 
      Pujaの方にコメントいただけるとは…。ありがとうございます。これって蔑称なのですか。料理を分類するのに便利かと思ったのですが、あまり使わない方が良い言葉だったりしますか?
      Wikipediaに、確かにサッカーチームの話が載っていました。象徴としてのエビとイリシュというだけで、別にそればっかり食べるというわけではないですよね。
      自分もコルカタに行った時は魚を毎日食べました。