ベンガル料理の向こう側シリーズ。
マスタードオイルについてはこちら。
ついに『ベンガル料理はおいしい』の全てのレシピを一通り作り終わった。セロリシードが無かったので省略したり、ビリヤニのケウラーとローズウォーターは省略したりしたので完全に忠実というわけではないが、思考停止して一冊のレシピ本を丸々トレースする、というのは一つ意味があることだと思った。
独学の問題点は自分の好きなことしかやらなくなってしまうことで、そうするとどうしてもバランスが悪くなってしまう。レシピ本が一つのカリキュラムとするならば、網羅的にやることで一応基本は抑えられたということなのだろうか。
しかし、やはりまだここはベンガル沼の入り口に過ぎなかった。一通り作ってみると改めて様々な疑問が浮かぶ。
ベンガル料理の全体像は存在しないし、例え規定できたとしてもそれが正しいのかは誰にもわからないという前提で、前回いくつか雑多な問を立ててみた。
ここからはその中から、またはそれを無視して特定のトピックを掘り下げてみて、ベンガル料理を理解する上で役立つことを書いていきたいと思う。全体像なんてないので体系的な理解は難しいかもしれないが、普段のカレー作りにも役に立つようなことも書いていきたい。
まずは、ベンガル料理を作っていると誰もがぶち当たるんじゃないかと思うこの疑問から。
あの、いくらなんでもマスタードオイル多過ぎませんか?
Mustard oil 、からし油はベンガル語で(সর্ষের তেল Shorsher tæl)というらしい。Shorshe がマスタードの意味。
マスタードシードは南インド料理を作っているとよく使うんだけど、マスタードオイルはベンガル、オリッサ、アッサム、ネパールなどのインド北東の方でよく使われている。いま、試しに粒をそのままかじってみたのだが少しだけピリッとして、あとから抜けるようにふわっとマスタードの風味がする。以前Kalpasiでチョコチップのようにジェラートにトッピングされていたのだが、全く違和感なかったことを思い出した。
レシピ本に従っていくつか料理を作り続けていたところ、先日購入した500cc入りのマスタードオイルがたった1日で半分以上なくなってしまい、気付いたら全部なくなってしまっていた。
どのレシピを見ても目に飛び込んでくるのは「マスタードオイル」の文字列。
マスタードオイル、いくらなんでも好き過ぎじゃないの?そこで、ちょっとテキストを元に考えてみる。
『ベンガル料理はおいしい』先頭ページの方に、セットメニューとして「菜食料理」とか「ベンガルの昼ごはん」などの料理の組み合わせがいくつか載っている。それらの作例を元に、そこで使われているマスタードオイルの分量を計算してみた。ちなみにどのレシピも分量は4~5人前。他の油で代用可能とは書いていない場合は*を付する。
菜食料理
大根とムング豆のスープ(大3/2)
ほうれん草の炒め物(大2)
カボチャのチョカ(大3)
カリフラワーのダルナ(大4)
ナスのフリット(揚げ油)
バスマティライス
トータル油…157.5cc + 揚げ油
ベンガルの昼ごはん
シュクト(大6)
野菜入りムング豆のスープ(大2)
じゃがいものケシの実煮(大2)
鯉のジョル(大6)
ほうれん草の炒め物(大2)
バスマティライス
トータル油…240cc
ベンガルの夜ごはん
レンズ豆のスープ(大3)
キャベツのゴント(大3)
ナスのマスタード煮*(大3)
チキンのジョル(大4)
米ナスのマスタードオイル焼き*(マスタードオイルで揚焼き)
バスマティライス
トータル油…195cc+揚げ油
魚料理
鯉の頭と豆のスープ(大6)
しらすと野菜の碗チョッチョリ*(大3)
バパ・サーモン*(大3)
大海老のマライカレー*(大5)
バスマティライス
トータル油…255cc
おもてなし
野菜入りムング豆のスープ(大2)
じゃがいものケシの実煮(大2)
瓜と海老のカレー*(大4)
マトンのコシャ(大4)
米ナスのマスタードオイル焼き*(マスタードオイルで揚げ焼き)
フライドライス(大2)
バスマティライス
トータル油…210cc + 揚げ油
じゃがいものケシの実煮とナスのマスタードオイル焼き、ほうれん草の炒め物が二回登場しているのは決して偶然ではなく、それだけオススメの料理であり、ベンガル人がよく食べるものだということだろう。
ライスは本当に毎食バスマティなのかな?というのは新たな疑問として生まれたが、また別の時の課題とする。
こうして見てみると、だいたい一食一人前当たり50cc〜60cc強の油が使われている計算になる。実に大さじ3〜4杯、これだけで400kcalいくかも。。。
インド料理やバングラデシュ料理は全体的に油の使用量が多いが、こうして見てみると結構びっくりする。
専門家ではないのでわからないが、油の適性な摂取量は一日に大さじ3杯以下程度だというので一食で超えてしまう計算。まあ、毎食こんな風にがっつり食べるわけではないが、バングラデシュの家庭でいただいた料理も油の使用量がかなり多かった。
使用量に関してはいったんレシピ通りに作ってみたので好みで減らすことができるのでいいのだが、使う油は必ずマスタードオイルでないといけないのだろうか。
マスタードオイルはベンガル料理に必須なのか
上の方のリストの通り、マスタードオイルが必須の料理もあれば、別の油で代用可能なものもある。
自分の結論は、マスタードオイルはなくてもベンガル料理は作れる!でも、特定の料理では使わないと味が決まらない!
マスタードオイルが必須だと明言されているのは、実は35レシピある中でナスのマスタードオイル焼き、ナスのマスタード煮、チョッチョリ、アジのボッタ、瓜と海老のカレー 、バパ・サーモン、大海老のマライカレー、サバのマスタードカレーの8レシピだけだった。
マスタードオイルは特にナスやシーフードと相性がいいので、そういう料理には、特に使ってもらいたい、ということなのだろう。
また、マスタードオイルを使うときは最初に煙が出るまで加熱する。そうすることで香りが立ち、辛味が飛ぶ。これはワサビやホースラディッシュとも共通した成分による「シャープ」とも表現されるような辛味だが、芳香成分も同じなので煮込んでいくと香りが失われてしまう。
ナスや魚介類の最初の素揚げで使うのはある程度成分がしみこむから意味があるのかもしれないが、やはりベンガル料理のボッタやネパール料理のサデコなんかの、料理の仕上げに少量ふりかけてマスタードの香りと辛味を活かす使い方に限ってもいいのではないかと思う。
個人的には、ジョルとか長時間煮込む料理にあえてマスタードオイルを使う意味はあまり感じない。
自分の経験になってしまうが、コルカタで見た料理ではマスタードオイルを結構使っていたが、ダッカでは全くと言っていいほど使っていなかった。
ホームステイさせてもらった友達の実家は健康にいいからとオリーブオイルを使っていたし、基本的にはどこも輸入の大豆油をメインで使っている感じだった。ただ、オリッサ州や西ベンガル、ネパールなどではマスタードオイルは伝統的に広く愛されていて、かなり愛着のある油なのだと思う。
インドの人は肌を丈夫にするということでスキンオイルとして赤ん坊の頃からマスタードオイルマッサージをされまくるらしいし、かなり「健康にいい油」という、ある種信仰と言うか民族のシンボルのような立ち位置でもあるのかもしれない。
『チャラカの食卓』という本に詳しく書いてあるらしいのだが、どうやら昔のインド世界では広くマスタードオイル が使われていたらしい。ベンガルやネパールなどではムガルなど外国勢力の影響が比較的少なかったため、今でもマスタードオイル を使う風習が残っているという可能性がある。らしい。
マスタードオイルは身体に悪い?
最後になるが、マスタードオイルについて調べていたら、アメリカでは食用としては禁止されているらしい(マッサージ用としては販売されている)。
理由としてはマスタードオイルに多く含まれているエルカ酸が心臓に疾患をもたらす可能性があるからとのこと。調べてみると有害と言う説と無害と言う説の両方の情報が出てきて、専門家ではないので実際よくわかっていない。
マスタードオイルの香り自体は好きなので使えるなら使っていきたいのだが、この辺詳しい方いたら教えてください。
コメント